希少糖とは

希少糖(rare sugar)とは

希少糖は、香川大学を中心に企業、大学、国や香川県が連携し、十数年間にわたる産学官連携事業として、研究開発が行われてきました。


希少糖は自然界に存在量の少ない単糖(糖の最小単位)のことで、その存在意義がわかりませんでしたが、最近大きな価値が発見されました。量は少ないですが種類の多い、自然の糖です。

円の大きさは自然界の存在量をモデル的に表しています。

希少糖は食後血糖値上昇抑制作用・脂肪蓄積抑制作用・動脈硬化予防作用・血圧上昇抑制作用・抗酸化作用など数々の作用が報告されており、メタボリックシンドローム対策に期待される新たな機能性素材として注目されています
 
希少糖は、自然界にその存在量が少ない単糖及びその誘導体と定義されています(国際希少糖学会)。単糖とその誘導体としての糖アルコールを加えると、60種類ほどになります。
そのうち自然界によく見られる単糖及び糖アルコールは、自然界の存在量をモデル的に表した図の緑色()で示されているように、圧倒的に多く存在するぶどう糖をはじめとした7種類で、50種類以上の単糖及び糖アルコールが自然界に僅かしか存在しない希少糖()に属しています。

 現在までに研究が進み、日本で使用されている希少糖は、エリスリトール、キシリトールなどで、近年になって新たにD-プシコースなどが加わってきました。
 エリスリトール、キシリトールなどは天然の糖をもとに、酵母による醗酵や還元反応を利用して工業的に作られた糖アルコールで、抗う蝕性、非う蝕性を持つ、あるいはカロリーが少ない、甘味料や食品添加物として市販されています。
 

希少糖の生産とイズモリング


いくつかの希少糖は、自然界によく見られる単糖から酵母の醗酵で作られたり、化学的な還元反応で作られたりしています。
希少糖の体系的な生産方法の研究は、香川大学農学部の何森 健(いずもり けん)教授が、1991年に農学部のキャンパスから見つけられた、微生物が作る酵素の発見に始まるとされています。何森教授は、この酵素を用いて果糖から希少糖D-プシコースを世界で初めて作ることに成功しました。さらに、この酵素(DTE)を用いることによって、何森教授は酵素反応を中心にした各種希少糖の生産工程を示す戦略図、イズモリングを発表しました。
 

六炭糖のイズモリング(2002年 香川大学 何森 健教授)
  
○で囲んである一つ一つはすべて単糖です。
ケト基C=Oを持つケトースと呼ばれる単糖
はアルデヒド基-CHOを持つアルドース類と呼ばれる単糖
糖アルコール
ケトース糖アルコールを結ぶ線  
は酸化還元酵素による反応
ケトースアルドースを結ぶ線  はアルドース・イソメラーゼによる反応
ケトースケトースを結ぶ線  はエピメラーゼ(酵素:DTE)による反応
アルドース糖アルコールを結ぶ線  はアルドース還元酵素による反応
を表しています。この道筋に沿って進むと目的とする単糖または糖アルコールを生産することができます。
 
糖の工業的生産は、植物が光合成によって作ったでんぷんから始まります。


 でんぷんを酵素反応によって分解し、ぶどう糖を作り、ぶどう糖からイソメラーゼの反応によって果糖を作ります。この反応によって生成された液糖は、ぶどう糖と果糖からなる液糖で、異性化糖と呼ばれ、市販されています。この異性化糖を分離して果糖の結晶を得ることができます。

さらに、果糖をもとにしてエピメラーゼ(DTE)の反応によって希少糖D-プシコースを作ることができます。D-プシコースから、イソメラーゼの反応によって希少糖D-アロースを作ることができ、また酸化と還元反応によってD—タガトースを作ることもできます。
 このようにしてD-プシコースやD-アロースなどを大量に作ることができるようになり、これらの希少糖が、自然界に多く存在する糖では見られなかった、生理活性を持つことを見つけることができました。こうした研究は、香川大学を中心にした産学官連携事業として、現在も継続して行われています。

単糖とは

炭水化物を分解して得られる最小の単位の糖を単糖と言います。炭水化物は、タンパク質、脂肪と合わせて「三大栄養素」と言われ、多くの生物体にとって必要な栄養素です。単糖が二つ結合したものは、二糖類と呼ばれ、砂糖(ショ糖)は、ぶどう糖と果糖が結合した二糖類です。単糖が三つ結合したものは三糖、20くらいまでの単糖が結合したものをオリゴ糖と呼んでいます。
 単糖は、炭素n個、水素2n個、酸素n個が結合して、CH2nOの分子式で表されます。自然界に見られる単糖は、炭素の個数nが3から6までの糖が多く、三炭糖、四炭糖、五炭糖、六炭糖と呼ばれています。三炭糖は3種類、四炭糖は6種類、五炭糖は12種類、六炭糖は24種類の単糖があり、これらの単糖で45種類あります。
 また、これらの単糖が還元されると糖アルコールができます。
 

              
六炭糖 果糖    糖アルコールの例 ソルビトール   六炭糖 ぶどう糖
 
  

希少糖のはたらき


希少糖の大量生産が可能になり、D-プシコースやD-アロースなどに生理活性があることがわかってきました。大学と企業の多くの研究者が、希少糖の安全性や機能性について精力的に研究を続けてきています。


D-プシコースの特性



甘味度  砂糖の7割
味 質  清涼感があり、
キレのいい甘さ
物 性  果糖様
カロリー ゼロ





 D-プシコースのはたらき ①  食後血糖値の上昇を抑える

 D-プシコースには、食後血糖値の上昇を抑える作用があるという研究報告が数多くあります。下図は、ヒト試験の一例です。



型糖尿病境界領域の被験者に、標準食に5gのD-プシコースを加えた食事(D-psicose)と、比較のために標準食に甘さを同じにするためにアスパルテーム10㎎を加えた食事(control)を与えた結果、D-プシコースを加えた食事を摂取した者が食後血糖値の上昇を抑えられることが示された例です。(食品加工技術、Vol.31No.2(2011)33-39より作成
 

 D-プシコースのはたらき ②  内臓脂肪の蓄積を抑える
 
 内臓脂肪の蓄積を抑えると同時に体重の増加を抑える作用についても、多くの研究が報告されています。その一例を下図に示します。


 4週齢ウィスターラット18匹に、糖質中の8%のD-プシコースで置き換えた異性化糖食(ぶどう糖:果糖:D-プシコース=58:34:8)を与えた群と、比較のために糖質中の8%のD-プシコース部分をセルロースに置き換えたものを与えた群を飼育した結果、体重の減少と内臓脂肪の減少が見られたという例です。
(国際特許出願公開番号WO2008/142860より作成)
 

 D-プシコースのはたらき ③  動脈硬化の抑制、抗う蝕性(虫歯になりにくい)、
寿命延長作用
 
 D-プシコースは、動脈硬化の抑制や非う蝕性(虫歯になりにくい)、寿命延長作用のはたらきも持つことが報告されています。
 
     
   
  D-アロースのはたらき  抗酸化作用、血圧上昇抑制、虚血障害保護作用、抗骨粗鬆
  症、抗癌作用、寿
命延長作用
 
 D-アロースは、D-プシコースからアルドース・イソメラーゼという酵素の反応によって作られる希少糖です。現在精力的に研究が続けられている希少糖の一つです。既に、細胞活性酸素抑制作用、収縮期血圧・拡張期血圧の上昇抑制、臓器虚血障害保護作用、破骨細胞分化抑制、癌細胞増殖抑制のはたらきがあることが報告されています。また、寿命延長作用についても報告されています。
 

 D-プシコース、D-アロース、その他の希少糖

 D-プシコースとD-アロースについて、寿命研究のモデル生物である若い線虫を使って希少糖を含む培地で培養し、生死を観察して平均寿命を算出した結果、希少糖を含まない培地に比べて寿命が伸びたことが明らかになりました。
 D-プシコースやD-アロースのはたらきも、まだ全てが明らかになったわけではありません。研究が進むにつれて次々と新しい機能が発見されてきました。その一つに植物への影響があります。
 

 希少糖の植物へのはたらき  植物生育調節作用、植物病虫害耐性増強作用

 希少糖のはたらきは、動物だけではありません。植物に対しても大きな影響を与えることがわかってきました。幾つかの希少糖がイネなどの病害虫防御関連遺伝子の発現を誘導すること、また生育調節作用を持つことを発見し、耐病性誘導や生育調節用の資材開発や利用法などの研究も進められています。

 

 また、幾つかの希少糖が含まれた希少糖含有シロップ(液糖)が、産学官・香川県の連携で開発され、そのはたらきが研究されてきています。


 希少糖含有シロップの機能性  抗肥満作用

 希少糖含有シロップ(糖組成:ぶどう糖 約44%、果糖 約30%、D-プシコース 約6%、その他の希少糖を含む糖 約20%)は、糖代謝の改善や抗肥満作用が報告されています。
その一例を下図に示します。



普通体重~1度の肥満(BMI 25以上、30未満)の健常成人34名(男女各17名;平均年齢42.0歳、平均体重70.5kg、平均BMI 25.8kg/m2、平均体脂肪率28.2%)を対象に、試験食:希少糖含有シロップ 30g(固形分)入りゼリー飲料、対照食:果糖ぶどう糖液糖 28g(固形分)入りゼリー飲料を、1日1回、朝食前に試験食品1本を12週間連続摂取したときの、体重および体脂肪率の変化を示しています。
結果は、体重の減少(1.8kg)と体脂肪率の減少(1.7%)が見られました。摂取を止めると復帰しました。(月刊フードケミカル2012-4より一部改編)
現在、この機序、原因について研究が進んでいます。
 

 希少糖には、まだ未知の機能が隠されているかも知れません。さらに、この他にも多くの希少糖があります。それらの希少糖にも、きっと新しい機能が見つけられる日が来ると思われます。これからも、産学官(企業と大学と国や県)が連携した研究開発の事業が続きます。

 
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